基本情報技術者試験など情報処理技術者試験を受験する方にとっては必須の,サービスマネジメントについてシンプルにまとめています。はじめに,サービスマネジメントの概要とITIL(サービスストラテジ,サービスデザイン,サービストランジション,サービスオペレーション,継続的サービス改善),ISO/IEC 20000(JIS Q 20000,ITSMS,組織の状況,リーダーシップ,計画,SMSの運用,パフォーマンス評価,改善,SMSの支援)の説明をし,その後,サービスマネジメントシステム(SMS)(計画,運用(サービスポートフォリオ(サービスの計画(サービスの要求事項),サービスカタログ管理(サービスカタログ),資産管理(アセットマネジメント,ライセンスマネジメント),構成管理(CI(構成品目))),関係及び合意(事業関係管理,サービスレベル管理(SLM)(SLA),供給者管理),供給及び需要(サービスの予算業務及び会計業務(TCO(総所有費用)逓減課金方式),需要管理,容量・能力管理(キャパシティ管理)),サービスの設計,構築及び移行(変更管理,リリース及び展開管理(一斉移行方式,段階的移行方式,並行移行方)),解決及び実現(インシデント管理(エスカレーション(機能的エスカレーション,階層的エスカレーション)),サービス要求管理,問題管理),サービス保証(サービス可用性管理,サービス継続管理(BCP(事業継続計画),BCM(事業継続管理)),情報セキュリティ管理)),パフォーマンス評価(監視,測定,分析及び評価,内部監査,マネジメントレビュー,サービスの報告),改善(不適合及び是正処置,継続的改善(CSF(重要成功要因),KPI(重要業績評価指標))),サービスマネジメントシステム(SMS)の支援)と,サービスの運用(システム運用管理(機能性,使用性,性能,資源の利用状況,信頼性,安全性とセキュリティ,運用者の作業負担,監視ツール,運用支援ツール),スケジュール設計,バックアップ,サービスデスク(ヘルプデスク)(ローカルサービスデスク,バーチャルサービスデスク,フォロー・ザ・サン))を説明しています。確実に点を取れる分野ですから,丁寧にしっかり取り組みましょう。
サービスマネジメント
サービスマネジメントとは,高品質なサービスを顧客に提供するために,サービスを維持・管理することをいいます。
※ People(業務に携わる人材),Process(業務の内容など),Product(サービスの提供に利用する製品など),Partner(サービスの提供に利用するメーカーなど)を効果的に組み合わせて維持・管理する
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)
ITILとは,ITサービスマネジメントのベストプラクティス(成功事例)を体系化したもので,世界的に活用されています。
※ イギリス政府商務局(OGC;Office of Government Commerce)が発行している
サービスライフサイクル
サービスライフサイクルには,次の5つのフェーズがあり,この5つのフェーズを繰り返し循環させながらサービスの価値を高めていきます。
| サービスストラテジ (戦略) | 目標を達成するために,どのようなサービスを提供し,どのように管理していくのかという戦略を策定する |
| サービスデザイン (設計) | サービスストラテジで策定した戦略を実現するために具体的な設計を行う |
| サービストランジション (移行) | サービスデザインで設計されたサービスを,運用の段階に移行するための方法などをまとめる |
| サービスオペレーション (運用) | サービスデザインで合意したサービスレベルに基づいて,顧客やユーザーにサービスを提供する |
| 継続的サービス改善 | ニーズの変化に対応しながら価値のあるサービスを提供し続けるために,提供しているサービスのパフォーマンスを測定・分析・レビューして,継続的な改善を行う ※ 他の4つのライフサイクルすべての段階で行われる |
※ ITIL v3から取り入れられた
※ ITIL v2では,(運営手法を示した)サービスサポートと(中長期的な計画と改善を示した)サービスデリバリをサービス領域としてる
ISO/IEC 20000
ISO/IEC 20000とは,ITSMSの要求事項を定めた規格で,組織がITサービスを確立,実施,維持,改善するための枠組みを提供しています。
※ ITSMS…Information Technology Service Management System。ITサービスマネジメントシステム
※ JIS Q 20000…ISO/IEC 20000を基にしている日本の規格(日本産業規格)
※ JIS Q 20000-1…サービスマネジメントシステム要求事項。JIS Q 20000-2…サービスマネジメントシステムの適用の手引
サービスマネジメントシステム(SMS;Service Management System)
サービスマネジメントシステムとは,サービスマネジメントに関するプロセスを確立し,管理・維持するためのしくみをいいます。
※ ITSMS(Information Technology Service Management System。ITサービスマネジメントシステム)…ITサービスをマネジメントするしくみ。PDCAサイクルにより管理する
※ PDCAサイクル…Plan(計画),Do(実行),Check(評価),Act(改善)
サービスマネジメントシステム(SMS)の計画
サービスマネジメントシステム(SMS)の計画では,サービスを効果的に運用・管理するために,サービスマネジメントシステムの計画を作成します。
サービスマネジメントシステム(SMS)の運用
サービスポートフォリオ
サービスポートフォリオとは,提供するサービスの一覧のことをいいます。
サービスの計画
サービスの計画では,(新規サービスや既存のサービス,サービス変更に対する)サービスの要求事項を決定します。また,利用可能な資源を考慮して,(新規サービスや変更要求またはサービス変更の提案の)優先順位付けを行います。
サービスカタログ管理
サービスカタログ管理では,顧客などに提供されているサービスの内容をサービスカタログとして作成し,維持します。
※ サービスの意図した成果や,サービス間の依存関係を説明するための情報を含める
※ サービスカタログは,顧客や利害関係者などに対して(すべてを公開するのではなく)適切な部分へのアクセスを提供するようにする
資産管理
資産管理では,サービスの要求事項や義務を満たすために,サービスを提供するために使用されている資産を管理します。
※ アセットマネジメント…アセット(資産)を管理すること。IT資産やソフトウェア資産を管理する
※ ライセンスマネジメント…ライセンスを管理すること
構成管理
構成管理では,すべてのCI(構成品目)を識別し,サービスに関連する構成情報を維持・管理します。
※ CI…Configuration Item。構成品目
※ CIに変更があった場合は,構成情報も更新する
※ 構成情報は,あらかじめ決められた間隔で正確性を確認する。欠陥が見つかった場合は,必要な処置をとる
※ 構成情報は,他のサービスマネジメント活動で利用できるようにする
関係及び合意
関係及び合意では,顧客などとの関係を管理したり,関係者間の合意を形成したりします。
事業関係管理
事業関係管理では,顧客満足度を維持するために,サービス満足度を測定・評価したり,サービスに対する苦情を管理したりします。
サービスレベル管理(SLM;Service Level Management)
サービスレベル管理では,サービスの提供者と顧客の間でSLAを結び,あらかじめ決められた間隔で,サービスレベルの目標に照らしたパフォーマンスや実績の周期的な変化を監視し,レビューし,報告します。
SLA(Service Level Agreement)
SLAとは,(サービスの提供者と顧客の間で合意する)サービスの内容や品質を保証するための契約(や合意書)のことをいいます。
※ SLAには,サービスレベルの目標(システムの稼働時間,問い合わせの受付時間帯,障害発生時の回復時間,システムの性能など),作業負荷の限度と例外,サービスレベルが達成されなかった場合の罰則事項などを含める
供給者管理
供給者管理では,サービス提供のために利用する外部の供給者(サプライヤー)などを管理します。合意したサービスレベルが維持されるように管理します。
※ サービス(の一部)を外部に委託している場合に行う
※ クラウドサービス(SaaSやPaaS,IaaSなど)の利用が増えている
供給及び需要
供給及び需要では,資源や費用などの供給や需要の管理を行います。
サービスの予算業務及び会計業務
サービスの予算業務及び会計業務では,財務管理の方針に従ってサービス提供に関するコストを予算化し,あらかじめ決められた間隔で,予算に照らして実際のコストを監視・報告・レビューします。コストは,利用者が負担するように課金を行います。
※ TCO(Total Cost of Ownership;総所有費用)を意識する。TCOには,初期コストやランニングコストなどが含まれる
逓減課金方式
逓減課金方式とは,サービスの使用量に応じて課金する方式です。
需要管理
需要管理では,季節変動などの変動要因を把握し,将来の需要を予測します。あらかじめ決められた間隔で,サービスの需要や消費を監視し,報告します。
容量・能力管理(キャパシティ管理)
容量・能力管理では,システムの利用状況を監視し,将来の要求に合わせた(増強)計画を立て,提供します。
※ CPU使用率,メモリ使用率,ディスク使用率,ネットワーク使用率などのリソースの閾値を設定し管理する
※ パフォーマンスを改善する機会も特定する
サービスの設計,構築及び移行
サービスの設計,構築及び移行では,新規サービスやサービス変更の設計・構築を行います。サービス内容の変更や移行時のリリースや展開についても管理します。
変更管理
変更管理では,変更を判断する基準を定義し,サービスや文書などの変更を漏れなく管理します。
※ RFC(Request for Change;変更要求)を受け取り優先順位を決定する ⇒ リスクや影響を考慮し変更要求を承認する ⇒ 承認された変更について計画,開発,試験する(計画どおりにならなかった場合は,元に戻したり,修正したりする)⇒ (リリース及び展開管理に送られ)稼働環境に展開する
サービスの設計及び移行
サービスの設計及び移行では,新規サービスまたはサービス変更の要求事項を用いて計画を立て,設計,構築し,試験します。
※ 試験の際には,試験環境を準備し,受入れテストや運用テストを行う
※ SLAやサービスカタログなどについても新設,更新する
リリース及び展開管理
リリース及び展開管理では,新規サービスやサービス変更を,本番環境に正しく反映させます。本番環境への移行方法には次のような方式があります。
※ すべてのソフトウェアのソースコードやマニュアルなどのCI(構成品目)は,1か所にまとめて管理する
- 一斉移行方式…(ある時点で)一斉に新システムへ切り替える方式。移行のコストを低くできるが,失敗のリスクがある
- 段階的移行方式…拠点単位などで段階的に新システムへ切り替える方式
- 並行移行方式…旧システムと新システムを並行して運用しながら切り替える方式
解決及び実現
解決及び実現では,サービスマネジメントシステムの不具合を解決し,改善したシステムを実現します。
インシデント管理
インシデント管理では,サービスマネジメントシステム(SMS)におけるインシデント(サービスの中断や品質の低下,今後利用者に影響する可能性のある事象)に対して対応します。
※ インシデント…事件や事故のこと
- インシデントを記録・分類し,影響及び緊急度を考慮して優先順位付けを行い,必要に応じてエスカレーションし,解決,終了する ⇒ インシデントの記録を更新する
- 重大なインシデントを特定する基準を決定する ⇒ 重大なインシデントが発生した場合は,文書化された手順に従って分類,管理し,トップマネジメントに通知する
※ エスカレーション…他の人に解決を委ねること
※ 機能的エスカレーション…より専門的な部署(や人)に解決を委ねること
※ 階層的エスカレーション…上の立場の人(上司など)に解決を委ねること
サービス要求管理
サービス要求管理では,利用者からの要求に対して対応します。
- サービス要求を記録・分類し,優先順位付けを行い,実現,終了する ⇒ サービス要求の記録を更新する
- サービス要求の実現に関する指示書を,サービス要求の実現に関与する要員が利用できるようにする
問題管理
問題とは,(1つ,または,複数の)インシデントの根本原因のことをいいます。
問題管理では,この問題を突き止めて管理します。
- 問題を特定するために,インシデントのデータ及び傾向を分析して根本原因の分析を行い,インシデントの発生,または,再発を防止するための処置を決定する
- 問題を記録・分類し,優先順位付けを行い,必要であればエスカレーションし,可能であれば解決し,終了する ⇒ 問題の記録を更新する
- 既知の誤りを記録しておく(再調査しないようにするため)
※ 問題管理に必要な変更は,変更管理の方針に従って管理する
※ 根本原因が特定されても問題が恒久的に解決されていない場合は,問題がサービスに及ぼす影響を低減,除去するための処置を決定する
サービス保証
サービス保証では,サービスが適切に運用されていることを保証します。
サービス可用性管理
サービス可用性管理では,提供するサービスが(合意に従い)常に利用可能な状態を維持できるように管理します。
- サービス可用性のリスクアセスメントを,あらかじめ決められた間隔で行う
- サービス可用性の要求事項などを決定して,サービス可用性を監視し,結果を記録し,目標との比較を行う ⇒ サービス可用性が損なわれた場合は,それを評価し,必要な処置をとる
※ サービスの可用性,信頼性,保守性などを評価する
※ 可用性の指標:稼働率,信頼性の指標:MTBF,保守性の指標:MTTR。稼働率やMTBF,MTTRの詳細は,「システムの性能評価と信頼性-システムの信頼性 -情報処理シンプルまとめ」を参照
サービス継続管理
サービス継続管理では,合意したサービスを中断することなく提供できるように管理します。
- サービス継続のリスクアセスメントを,あらかじめ決められた間隔で行う
- サービス継続の要求事項を事業計画やSLAなどを基に決定して計画を立て,実施し,維持する
※ サービス継続に関する計画を立てる際は,局所的なリスクについても考慮する
※ 重大な変更があった場合は,再度,計画する
※ 災害に備えるために事業継続計画(BCP)を立て,事業継続管理(BCM)を行う
※ BCP(Business Continuity Plan;事業継続計画)…災害などの緊急事態が発生した際に,損害を最小限に抑え,重要な事業を継続,または,早期に復旧させるための計画。組織の事業継続計画では,大規模災害などに備えるが,サービス継続に関する計画の場合は,局所的なリスクについても考慮する
※ BCM(Business Continuity Management;事業継続管理)
情報セキュリティ管理
情報セキュリティ管理では,情報資産の機密性,完全性,可用性を保つために,情報セキュリティを管理します。
※ ISMS(Information Security Management System;情報セキュリティマネジメントシステム)を構築し管理する。ISMSの詳細は,「情報セキュリティ管理-情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS;Information Security Management System) -情報処理シンプルまとめ」を参照
パフォーマンス評価
サービスマネジメントシステム(SMS)では,パフォーマンスを定期的に評価します。
監視,測定,分析及び評価
監視,測定,分析及び評価では,サービスの要求事項と照らし合わせて,監視,測定,分析,評価を行います。
内部監査
内部監査では,監査項目を設定し,サービスの要求事項を満たしているかを監査します。
※ 独立性を確保した内部監査チームが監査する
マネジメントレビュー
マネジメントレビューでは,内部監査の結果などを基に,トップマネジメントが定期的にサービスマネジメントシステムの運用状況を評価します。
※ 改善の必要があれば,その意思決定も行う
サービスの報告
サービスの報告では,サービスマネジメントシステム(SMS)のサービスのパフォーマンスや,有効性などに関するサービスの報告を作成します。
改善
不適合及び是正処置
不適合及び是正処置では,パフォーマンス評価で不適合が発生した場合に,是正処置を行います。
※ 是正処置…不適合によって起こった結果に対する処置や,不適合が再発しないようにするための処置
継続的改善
継続的改善では,サービスマネジメントシステム(SMS)やサービスの適切性,妥当性,有効性などを継続的に改善します。
※ CSFやKPIなどの評価基準を決定しておくことで,改善活動を管理できるようになる
※ CSF(Critical Success Factor;重要成功要因)…目標達成のために重要となる要因
※ KPI(Key Performance Indicator;重要業績評価指標)…CSFの進捗状況を継続的に確認するための指標
■ ITILの7ステップの改善プロセス
ITILの継続的サービス改善では,改善プロセスを,7ステップの改善プロセスとして,次のように示しています。
- 改善の戦略を識別する
- 測定するものを定義する
- データを収集する
- データを処理する
- 情報とデータを分析する
- 情報を提示して利用する
- 改善を実施する
サービスマネジメントシステム(SMS)の支援
サービスマネジメントシステム(SMS)の支援では,文書化した情報や知識などを共有し,コミュニケーションを正確に行えるようにします。
サービスの運用
システム運用管理
システム運用管理では,運用要件を満たしているかどうかを定期的に評価します。
※ 機能性,使用性,性能,資源の利用状況,信頼性,安全性とセキュリティ,運用者の作業負担などの評価項目について定期的に評価する
※ 監視ツールや運用支援ツールなどを使用する
スケジュール設計
スケジュール設計では,日常的に行う作業(日次処理や月次処理など)のスケジュールを決定します。
バックアップ
バックアップでは,システムの故障に備えて,データのバックアップを定期的に行います。
※ バックアップの詳細は,「データベース管理システム(DBMS)(物理設計)-データベース管理システム(DBMS;DataBase Management System)-トランザクションの管理-障害回復-バックアップファイル -情報処理シンプルまとめ」を参照
サービスデスク(ヘルプデスク)
サービスデスクとは,利用者からの問い合わせ窓口のことをいい,トラブルへの対応や,苦情,要望の聞き取りなどを行います。
※ サービスデスクで解決できない場合は,エスカレーションする
- ローカルサービスデスク…利用者の近くに配置するサービスデスク。言語などが異なる利用者への対応や,VIP対応などができる
- バーチャルサービスデスク…複数の地域に分散しているスタッフやサービスデスクを,通信技術を利用して1つに集約したサービスデスク。単一のサービスデスクのように見える
- フォロー・ザ・サン…時差がある複数の拠点にサービスデスクを配置したもの。24時間体制でサービスを提供することができる
まとめ
今回は,サービスマネジメントにまとめてみました。繰り返し頑張りましょう。
